塗る準備はできた。あとは塗るだけ。そう思って始めると、ガラスに塗料が付き、境目がよれて、蝶番まで塗ってしまいます。塗装でいちばん退屈で、いちばん差が出るのが養生です。
そして、養生でもっとも失敗が多いのは貼るときではありません。剥がすときです。 引くタイミングと引き方を間違えると、塗ったばかりの塗膜まで一緒に持っていかれることがあります。
- 境目がまっすぐにならない
- テープの下に塗料が入り込む
- 剥がすときに塗装が一緒に剥がれた
- 養生テープとマスキングテープの違いが分からない
- マスカーという道具を見たが使い方が分からない

テープを剥がしたら、塗った色まで一緒にめくれてしまって。

テープを剥がしたら、線までいっしょに剥がれませんでしたか。貼り方と剥がし方で変わります。
私は工場で機械部品の塗装をして10年になります。塗る時間より養生の時間のほうが長い日も珍しくありません。この記事では、使う道具と、貼り方と剥がし方をお伝えします。道具は1000円ほどでそろいます。
養生をしないと何が起きるか

省きたくなる作業ですが、省いた分はあとで自分に返ってきます。起きることを3つお伝えします。
垂れと細かい飛沫が周りに付く
刷毛塗りでも、塗料は垂れますし、細かい粒も飛びます。とくに刷毛を面から離した瞬間に、糸を引くように散ります。
床、壁、下に置いてある物。塗っている本人は、飛んだことに気づきません。気づくのは乾いたあとです。屋外で風があると、飛ぶ範囲はさらに広がります。付いてしまったときの落とし方はペンキの落とし方と乾く前にすることで解説しています。
境目がまっすぐにならない
枠と壁の境、ガラスとサッシの境。手だけでまっすぐな境目を作るには、技術が要ります。
テープを貼れば、その技術がなくても線が引けます。きちんと貼れていれば、テープの縁がそのまま境目になります。ここが養生のいちばんの利点です。
動く部分が固まって開かなくなる
蝶番、鍵穴、戸車、レール。動く部分に塗料が入ると、固まって動かなくなります。
ここは塗り直しでは戻りません。部品を外すか、交換することになります。サッシで塗ってはいけない場所はアルミサッシ塗装の8つの手順と塗ってはいけない5か所にまとめています。
塗装の養生に使う道具

売り場にはテープが何種類も並んでいますが、そろえるのはマスキングテープ、マスカー、床に敷くシートです。シートを留める養生テープも合わせて用意します。

マスキングテープ
薄い和紙でできた、粘着力の弱いテープです。境目を作るのはこれです。幅は18ミリから24ミリがよく使われます。広い場所には30ミリ以上もあります。
粘着力が弱いのは欠点ではありません。きれいに剥がせることのほうが大事だからです。ただし弱ければよいわけでもなく、浮いていると塗料が入ります。1巻100円から300円ほどです。
マスカー
マスキングテープにポリシートがくっついた道具です。テープを貼ってシートを広げれば、それだけで広い面を覆えます。
ドア1枚のまわり、窓ガラス全面、壁ぎわの床。シートを別に貼る手間がないので、覆うのが早く済みます。1巻200円から500円ほどです。
ただしテープで貼る道具なので、貼る相手が要ります。 土や砂利の上には留まりません。地面を覆うだけなら、次に出てくるシートのほうが向いています。
養生シートか新聞紙
床に敷くものです。ビニールの養生シートでも、新聞紙でも構いません。
ただし新聞紙は少しの垂れなら受けられますが、量が多いと染み抜けます。 床まで届くことがあるので、屋内ではビニールのほうが安心です。100均でも買えますが、広い面を長く覆うときは厚手のものを選んでください。
このシートを床に留めるのが養生テープです。シート固定用のものは粘着力が強く、上を歩いてもはがれにくくなります。ただし砂やほこりの上には付かないので、テープだけに頼らず端を押さえてください。
| 道具 | 役割 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 塗装用マスキングテープ | 境目を作る | 下地に合う製品を選ぶ |
| マスカー | 広い面を覆う | 風でめくれる |
| 養生シート | 床や家具を覆う | 端を別に留める |
| 養生テープ | シートを留める | 製品で粘着力が違う |
養生テープは製品によって粘着力が大きく違います。 シートを床に留めるためのものは強く、塗る面や木部に貼ると、剥がすときに下地や古い塗膜まで持っていくことがあります。境目を作るのは、塗装用と書かれたマスキングテープです。
塗装の境目はテープの貼り方で決まる

貼るときのコツは3つだけです。どれも1秒でできることですが、やるかやらないかで境目が変わります。

端を指でしっかり押さえる
テープは置いただけでは密着していません。塗る側の縁を、指の腹で最後まで押さえてください。
浮いているところがあると、そこから塗料が入り込みます。入り込んだ塗料は、剥がしたときにギザギザの線として残ります。押さえるのは塗る側の縁だけで十分です。
長い直線は一気に貼る
少しずつ貼ると、必ずどこかで曲がります。テープの端を留めたら、必要な長さを引き出して宙でぴんと張ります。 目で線を見ながら、そのまま面に下ろしてください。
曲がったら、その部分だけ剥がして貼り直します。曲がったまま塗ると、曲がった線がそのまま残ります。ただし同じテープを何度も貼り直すと粘りが落ちます。 弱くなったら新しい部分を使ってください。
角は切って重ねる
角でテープを折り返すと、そこが浮きやすくなります。角まで貼ったらいったん切って、次の面をあらためて貼ってください。
重なる部分は少し重ねます。すき間があると、そこだけ塗料が入ります。
テープ1枚なら乾く前に剥がす

この記事でいちばんお伝えしたい章です。養生の成否は、剥がす瞬間に決まります。

乾いてから剥がすと塗膜ごと切れる
塗料は、テープの上にも乗っています。つまり塗った面とテープは、1枚の膜でつながっています。
テープを引くという作業は、その膜を切る作業でもあります。塗装店のアドバイザーが監修するDIYLABOも、テープを剥がすことを「塗膜を切る」作業だと説明しています。
膜が固まりきってから引くと、テープの縁で切れずに、残したい塗装のほうまで引っぱられることがあります。
剥がす時間は案内が分かれている
正直にお伝えします。いつ剥がすかについて、案内は2つに分かれています。 テープのメーカーは時間を公表していません。
| いつ剥がすか | 考え方 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 乾く前 | 膜が柔らかいうちに切る | テープ1枚のDIY |
| 完全に乾いてから | 固めてから順番に切っていく | テープを何枚も重ねる仕事 |
扉1枚にテープを1周貼るだけなら、乾く前をおすすめします。 完全に乾かす方法は、カッターで切れ目を入れる作業が必要になることがあり、初めての方には難しいためです。
目安は、表面のべたつきが取れて、まだ膜が柔らかいときです。塗ってすぐでは塗料が流れ、乾ききると膜が強くなります。確かめるときは塗った面ではなく、テープの上に乗った塗料に触れてください。 塗装面を指で押すと跡が残ります。
なお、塗料やテープの説明書に剥がす時期が書かれていれば、そちらを優先してください。 不安なときは、目立たない場所に同じテープを貼って塗り、剥がし方を試してから本番に入ります。
ゆっくり折り返すように引く
剥がし方は、時間よりも大事かもしれません。まっすぐ手前に引っ張らないでください。
- まっすぐ上に引き上げない → 残したい塗装まで引っぱられる
- 塗った面に沿わせて折り返す → 膜が縁で切れる
- ゆっくり一定の速さで引く → 途中で止めると段差が出る
- 貼った順とは逆に剥がす → 重ねた部分から先に外れる
途中で塗装が一緒に浮いてきたら、そこで止めてください。反対側から引き直すと、うまくいくことがあります。
塗るものごとの養生の要点

塗る相手によって、気をつける場所が変わります。このブログで扱ってきたものを3つに分けてお伝えします。
玄関ドアと門扉
気をつけるのは蝶番、鍵穴、ドアノブ、郵便受けの投入口です。どれも動く部分か、開いている部分です。
ドアノブは外せるなら外したほうが早く、仕上がりもきれいです。外せないときは、細いテープで根元をぐるりと巻きます。手順は玄関ドア塗装のかんたんDIY手順とムラ防止のコツ3選で解説しています。
物置とフェンス
屋外なので、気をつけるのは自分の敷地の外です。隣の家の車、洗濯物、植木。 飛んだ塗料は風下へ行きます。
地面には養生シートを敷きます。 土や砂利の上なら、端をブロックや石で押さえてください。コンクリートの土間なら、養生テープで留められます。
そして風の強い日は、日を改めてください。どれだけ覆っても、細かい粒は風下へ飛びます。物置の手順は物置塗装DIYの8つの手順と電動工具の出番にまとめています。
室内の家具
床と壁を守ります。家具の下にシートを敷き、家具より一回り大きく取ってください。壁ぎわはマスカーを壁に貼って、シートを床へ垂らすと早く済みます。
棚なら、ダボ穴にもテープを貼ります。棚板の高さを変えるために、側板に空いている小さな穴のことです。穴に塗料が入ると、棚板を支える金具が入らなくなります。

この穴は1つ1つが小さいので、テープを細く切って1枚ずつ貼るより、穴の列にそって細いテープを1本通すほうが早く終わります。カラーボックスの手順はカラーボックス塗装の7つの手順とはじかない下地作りで解説しています。
塗装の養生のよくある質問

作業の前後によく出てくる疑問をまとめました。
養生テープで代用してよいか
塗る面に貼るのはやめてください。シートを留めるための養生テープは粘着力が強く、剥がすときに下地や古い塗膜まで持っていくことがあります。
床にシートを留めるときは養生テープが向いています。塗る面にはマスキングテープ、床にはシートを留める養生テープと覚えてください。
テープを貼ったまま何日も置いてよいか
置かないでください。マスキングテープは、長く貼るとのりが残ったり、日光で固まって剥がれにくくなったりします。
貼るのは塗る直前、剥がすのはその日のうち。2回塗るのに日をまたぐなら、1回目のあとで一度剥がして貼り直すほうが安全です。
のりが残ってしまったらどうするか
乾いた布で強くこすると広がります。消しゴムでこすると取れることがあります。
それでも残るときは、塗っていない面であればシール剥がし剤が使えます。塗ったばかりの面には使わないでください。 塗膜や素材を傷めることがあります。
マスカーの幅はどれを買えばよいか
シートの幅で選びます。ドアや家具のまわりなら550ミリ、床や壁なら1100ミリが使いやすい大きさです。
迷ったら広いほうを買ってください。広いシートは折って使えますが、狭いシートは広がりません。
養生にかかる時間はどれくらいか
ドア1枚で、慣れた人なら10分から20分、初めてなら30分以上かかります。形が複雑なほど、また守るものが多いほど長くなります。
長く感じるかもしれませんが、養生を省いて塗料を落とす作業をすると、その何倍もかかります。
100均のテープでもよいか
床に敷くシートとビニールは100均で構いません。境目を作るマスキングテープだけは、塗装用と書かれたものを選んでください。
文房具のマスキングテープは、粘着力や紙の厚みが違います。境目がにじんだり、のりが残ったりします。道具の予算は塗装の下地処理の7つ道具とむだのない予算にまとめています。
まとめ

養生は、塗る技術がなくてもまっすぐな線を作れる道具です。腕ではなくテープが線を作ります。
そして、いちばん大事なのは剥がす瞬間です。塗った面とテープは1枚の膜でつながっていることだけ覚えておけば、乱暴に引っ張ろうとは思わなくなります。
- まっすぐな線はテープが作る
- 使うのはマスキングテープとマスカーとシート
- 養生テープは塗る面に貼らない
- 塗る側の縁を指で押さえる
- 長い直線は一気に貼る
- 角は切って重ねる
- テープ1枚なら乾く前に剥がす
- 折り返すようにゆっくり引く
- 貼ったまま何日も置かない

剥がす時間まで考えたことがありませんでした。次は乾く前にやってみます。

そこだけで仕上がりが変わりますよ。折り返すように、ゆっくりどうぞ。
養生が終わったあとの塗り方はペンキの塗り方とプロの刷毛づかい4つの動きを、塗る前の下地処理は鉄のサビの落とし方と4つの方法の比べ方をあわせてご覧ください。

