塗料と刷毛を買えば塗り始められる、と思っていませんか。実際に手を動かすと、時間のほとんどは塗る前の作業に消えます。洗って、落として、整えて、脱脂して、覆う。この段階でつまずくと、どれだけ丁寧に塗っても結果は同じところに落ち着きます。
- 売り場で何を買うか決まらない
- 買い忘れて二度手間になる不安
- 全部そろえるといくらかの疑問
- 100均で足りるかどうかの迷い
- テープの種類の多さ

ホームセンターに行ったものの、何を買えばいいのか分からず帰ってきました。

塗る前の道具は、工程の順にそろえると抜けません。順番にお伝えします。
私は工場で機械部品の塗装をして10年になります。現場でも、塗る時間より下地を整える時間のほうが長くなります。この記事では、塗料・刷毛・プライマーなどの塗る材料を除き、塗る前の作業に使う道具を7種類紹介します。あわせて、むだなくそろえるための予算の目安もお伝えします。刷毛と塗料は別の記事で扱うため、ここには入れていません。
下地処理で仕上がりが決まる理由

道具の話に入る前に、なぜそこまで手間をかけるのかをお伝えします。理由が分かっていると、どの道具を省いてよくて、どれを省いてはいけないかが自分で判断できるようになります。塗装は、下にあるものの状態をそのまま引き継ぐ作業です。理由は3つに分けられます。
塗膜は下地の状態を引き継ぐ
塗膜には厚みがありますが、深い傷や段差、凹凸、腐食による欠損を消せるほどではありません。下にざらつきがあればざらつきが、段差があれば段差が、そのまま表面に出ます。
塗って隠れるのは色だけです。形は隠れません。整えるなら塗る前しかない、という順番になります。
汚れと脂は塗料をはじく
屋外にあるものには砂ぼこりと排気ガスの油分が、屋内のものには手の脂が付いています。脂が残った場所だけ塗料が弾かれ、そこから剥がれます。
やっかいなのは、見た目ではまったく分からないことです。きれいに見える面でも、洗って脱脂するまでは信用できません。
つるつるの面は食い付かない
アルミ、メッキ、樹脂などは、塗料が密着しにくい場合があります。洗うだけでは足りず、塗料メーカーが指定する足付けの方法や、素材に適合したプライマーが必要になることがあります。カラーボックスの化粧板も同じで、削り方には加減が要ります。カラーボックス塗装の下地処理と7つの手順で解説しています。
素材ごとの考え方は、門扉の塗装をDIYする7つの手順と道具の選び方とスチールラック塗装を剥がれにくくする7つの手順で解説しています。
塗装の下地処理の7つ道具

ここからが本題です。道具は工程の順に並べています。この順で買い物かごに入れれば、買い忘れが起きません。すべてが毎回必要になるわけではなく、対象の状態によって省けるものもあります。なお、これは買い物の順番です。実際の作業では、塗料の指定や作業のしやすさによって、養生を先に済ませることもあります。
ここで紹介するのは、塗る前の作業に使う道具です。塗料と刷毛のほかに、素材によってはプライマーやサビ止め塗料などの下塗り材が別に必要になります。アルミ、メッキ、樹脂、木部などが該当します。何が要るかは、使う塗料の説明書と対象の素材で決まります。鉄に使うサビ止めの選び方はサビ止め塗料の選び方と初心者が迷う4つの分かれ道で解説しています。

| 道具 | 価格の目安 | 必要になる場面 |
|---|---|---|
| 1 洗うもの | 0〜300円前後 | ほぼ毎回 |
| 2 古い塗膜を落とすもの | 300〜800円前後 | 塗膜が浮いているとき |
| 3 サビを落とすもの | 300〜800円前後 | 鉄がサビているとき |
| 4 表面を整えるもの | 300〜800円前後 | ほぼ毎回 |
| 5 脱脂するもの | 0〜1200円前後 | ほぼ毎回 |
| 6 養生するもの | 500〜1300円前後 | ほぼ毎回 |
| 7 身を守るもの | 900〜3000円前後 | ほぼ毎回 |
道具1 洗うもの
台所用の中性洗剤とスポンジで足ります。新しく買う必要はほとんどありません。屋外のものを洗うなら、柄の付いたブラシがあると楽になります。
売り場では高圧洗浄機も目に入ります。フェンス全体や物置のように広い面を洗うなら効きますが、郵便受けや門扉1枚、物干し台であれば、ホースとスポンジで足ります。強い水流は隙間から内部に水を押し込むことがあるため、小さいものには向きません。屋外の鉄部を塗る例は物干し台のサビをDIYで塗り直す7つの手順で解説しています。
洗ったあとは、表面だけでなく隙間や継ぎ目まで乾かします。乾く早さは気温や湿度、風、素材で大きく変わります。時間で区切らず、触って冷たく湿っている場所が残っていないかで判断してください。塗料やプライマーの説明書に施工条件があれば、そちらを優先します。
道具2 古い塗膜を落とすもの
スクレーパー、売り場によっては皮スキという名前で並んでいます。平たい金属のへらで、浮いた塗膜をこそげ落とすための道具です。
指で押してぶかぶかする塗膜、爪で引っかくと帯で剥がれる塗膜があるときに使います。逆に、塗膜がしっかり付いているなら出番はありません。
刃を寝かせて、押すように使います。立てると素材に刺さって傷が付きます。
道具3 サビを落とすもの
ワイヤーブラシです。線材に鋼線、ステンレス線、真鍮線、ナイロンなどがあり、対象の素材と製品の表示を見て選びます。鉄のサビ落としには鋼線が使われることが多く、アルミやステンレスにはステンレス線やナイロンが選ばれます。使い方と、他の道具との比べ方は鉄のサビの落とし方と4つの方法の比べ方にまとめています。
アルミやステンレスに鋼線を当てると、削れた鉄の粉が表面に残ってサビの原因になることがあります。ただし真鍮線なら常に安全というわけではなく、やわらかい素材には傷が付きます。素材が分からないときは、いきなり金属のブラシを使わず、目立たない場所でナイロンのブラシや細かい研磨材から試してください。
広い面積や厚く盛り上がったサビには電動工具が向きますが、家庭で塗り替える対象の多くは手作業で足ります。買うべきかどうかの判断はサビ落としに電動工具が必要な3つの条件にまとめています。
道具4 表面を整えるもの
サンドペーパーです。番手という数字で粗さが分かれていて、数字が小さいほど粗く、大きいほど細かくなります。

何番を使うかは、対象と使う塗料で変わります。塗料やプライマーの説明書に指定があれば、そちらを優先してください。指定がない場合は、目立たない場所で細かい番手から試し、落ちなければ順に粗くしていく進め方が安全です。
買うときは、番手がいくつか入ったセットが便利です。1枚ずつ買うより割安で、途中で足りなくなることもありません。
道具5 脱脂するもの
売り場では「シリコンオフ」という名前で並んでいます。油分を拭き取るための液体で、ウエスや不織布に含ませて使います。
専用品を使わず、中性洗剤でよく洗って完全に乾かす方法でも油分は落とせます。どちらの方法でも、拭き上げたあとは素手で触らないでください。指紋が付いた場所だけ塗料が弾かれます。
脱脂剤を選ぶときは、対象の素材と使う塗料に適合するかを表示で確認してください。樹脂の部品や塗装面を傷めるものもあります。可燃性の製品は、火気を避けて換気しながら使います。
道具6 養生するもの
ここで多くの方がつまずきます。マスキングテープと養生テープは、名前が似ていても役割が違う道具です。

| 比べる点 | マスキングテープ | 養生テープ |
|---|---|---|
| 役割 | 塗る境目を作る | 床や家具を一時的に覆う |
| 幅 | 細いものが中心 | 広いものが中心 |
| 粘着 | 用途に応じて設計されている | 剥がしやすさを優先 |
| 向く場面 | 塗る面と塗らない面の境 | シートの固定 床の保護 |

養生テープで境目を作ってはいけないのですか。

貼れますが、線をきれいに出すなら塗装用のほうが向いています。製品ごとに粘着も対応する面も違うので、表示を見てください。
面を覆うには、養生シートかマスカーを使います。マスカーはテープとシートが一体になったもので、貼って広げるだけで覆えます。貼る手間がひとつ減るので、広い範囲を守るときに効きます。
テープの貼り方と剥がすタイミングは、塗装の養生で仕上がりが決まるでくわしく説明しています。
道具7 身を守るもの
忘れられやすいものですが、削る作業では必要になります。守る相手は2種類あり、粉と、揮発する成分では必要な装備が違います。
- 保護メガネ → 飛んでくる粉や破片から目を守る
- 防じんマスク → サビや古い塗膜の粉を吸い込まない
- 有機ガス用の防毒マスク → 溶剤の蒸気を吸い込まない
- 作業用の手袋 → 手の切り傷と汚れを防ぐ
防じんマスクは粉を防ぐもので、溶剤の蒸気は防げません。シンナーや溶剤系の脱脂剤、溶剤系の塗料を使う場合は、製品の表示に合った有機ガス用の防毒マスクなどが必要になることがあります。製品の安全表示と取扱説明書を確認し、換気しながら作業してください。
保護メガネは、規格の表示があるものを選んでください。ふだんのメガネは保護具ではありません。横から入るものを防げず、衝撃にも耐えられません。作業内容に合った保護の性能があるかも、あわせて確認します。
手作業の下地処理では、手袋を着けて構いません。一方でディスクグラインダーやドリルなど、回転部に巻き込まれるおそれのある工具では、手袋を外します。繊維が巻き込まれて手ごと引き込まれるためです。回転中の工具に、手袋も衣服も髪も近づけないでください。判断に迷う場合は、工具の取扱説明書の指示を優先します。
下地処理の道具にかける予算

いくら見ておけばよいのかは、対象の大きさと、今後も塗るつもりがあるかで変わります。ここでは3つの目安をお伝えします。いずれも塗料・刷毛・プライマーを含まない、下地処理の道具だけの概算です。2026年9月時点のホームセンターで見かける価格をもとに私が内訳を組んだもので、店舗や時期、選ぶ製品によって上下します。

3000円でそろえる場合
郵便受けひとつなど、小さいものを一度だけ塗る場合です。脱脂は中性洗剤で代用し、専用品を買いません。
- 中性洗剤とスポンジ 家にあるもの
- ワイヤーブラシ 500円前後
- サンドペーパーのセット 500円前後
- マスキングテープ 300円前後
- 養生シート 300円前後
- 手袋 100円前後
- 保護メガネと防じんマスク 1000円前後
この構成でも、下地処理の作業はひととおりできます。足りないのは効率と楽さです。これとは別に、塗料と刷毛、素材によってはプライマーの費用がかかります。溶剤を使う場合は、防毒マスクの費用も見ておいてください。
6000円でそろえる場合
門扉や家具など、ある程度の大きさがあるものを塗る場合です。迷ったらこの構成が標準になります。
3000円の構成に、次の3つを足した形です。
- スクレーパー 600円前後
- 脱脂剤 900円前後
- マスカー 600円前後
脱脂剤が入ると拭き上げが確実になり、マスカーがあると養生の時間が短くなります。作業の質が上がるのは脱脂剤、時間が減るのはマスカーです。どちらか一方を選ぶなら、仕上がりに効く脱脂剤を先に買ってください。
1万円でそろえる場合
これから何度か塗るつもりがある場合です。6000円の構成に、次のようなものを足します。
- サンドペーパーを番手ごとに追加
- マスキングテープの幅違い
- ワイヤーブラシの線材違い
- 柄の付いた洗浄ブラシ
- 道具をまとめて入れる箱
幅違いのテープがあると、細かい部分と広い部分で貼り分けられます。線材違いのブラシは、鉄以外の素材を塗るときに効いてきます。
消耗品はサンドペーパーとテープ、ウエスくらいです。スクレーパーやブラシ、保護具は手入れをすれば長く使えます。2回目からは、かかるのは塗料代と消耗品代だけになります。
100均で買える下地処理の道具

刷毛については、以前の記事で100均をすすめませんでした。下地処理の道具では判断が変わります。100均の商品でも軽い作業に使えるものはあります。分かれ目は値段ではなく、用途や材質が表示されているかどうかです。
養生と洗いの道具は100均でよい
養生シート、スポンジ、ウエス、作業用の手袋。これらは100均で買って差し支えありません。使い捨てにする前提のものばかりで、品質の差が仕上がりに出にくい部分です。ただし油性の塗料を拭いた布は、丸めて置くと火が出ることがあります。しまい方と捨て方はペンキの捨て方と水性と油性の分かれ道で解説しています。
養生テープも、床を一時的に覆ったりシートを留めたりする用途なら足ります。ただし塗る境目を作るテープは、塗料の種類と貼る素材に対応した製品を選んでください。ここは仕上がりの線がそのまま出る場所です。塗装用と書かれていても、長く貼ったままにしたり、弱った塗膜の上に貼ったりすると、剥がれや糊残りが起きることがあります。
削る道具と脱脂剤は表示を確かめる
サンドペーパーは、番手や用途の表示を確かめてください。番手の種類がそろっていない場合や、使っているうちに研磨材が落ちて作業が進まない製品もあります。軽い作業なら問題なく使えることもあります。
ワイヤーブラシは、線材の種類が表示されていない製品があります。鉄以外の素材に使うときに判断できません。脱脂剤も、対象素材や成分の表示を確認できるものを選んでください。表示が足りない商品は、仕上がりや密着を左右する場所では避けると安心です。
保護具は規格と用途で選ぶ
保護メガネと防じんマスクは、価格ではなく規格の表示があるかどうかで選んでください。表示のある製品であれば、安価なものでも構いません。
目を守るものなので、迷ったら表示のあるほうを選びます。ここを削っても、浮くのは数百円です。
下地処理の道具のよくある質問

買い物の前後で迷いやすい点をまとめました。どれも実際によく聞かれる内容です。
下地処理の道具はどこで買えるか
ホームセンターであれば、ひととおり同じ売り場でそろいます。塗料コーナーの近くに、下地処理用の道具がまとまっていることが多くあります。塗料を通販や100均で買うときに確かめることは、【比べて選ぶ】ペンキはどこで買う?ホームセンター・通販・100均にまとめています。
店員に「何を塗るか」を伝えると、対応する下塗り材まで案内してもらえます。素材が分かる写真を撮っていくと話が早く進みます。
全部そろえないといけないか
いいえ。対象の状態によって、要らないものがあります。塗膜が浮いていなければスクレーパーは不要ですし、サビがなければワイヤーブラシも使いません。
反対に、多くの場面で欠かせないのは、汚れを落とすこと、必要に応じた脱脂、塗らない部分を守ること、そして安全対策の4つです。ただしどの道具がどれだけ要るかは、素材と塗料と作業する場所で変わります。小さな部品を屋内で塗るなら、大がかりな養生は要りません。
一度使った道具は次も使えるか
スクレーパー、ワイヤーブラシ、保護メガネ、防じんマスクの本体は、手入れをすれば繰り返し使えます。使ったあとは汚れを落とし、乾かしてから片付けてください。
サンドペーパー、テープ類、ウエスは消耗品です。マスクのフィルターにも交換の目安があるため、製品の表示を確認してください。
サンドペーパーは何枚必要か
対象の広さと状態によりますが、番手ごとに数枚は見ておいてください。目詰まりして削れなくなったら交換します。
削れなくなった紙を使い続けると、力を入れることになり、削りすぎや傷の原因になります。もったいないと思わずに替えたほうが、結果として早く終わります。
養生テープをマスキングテープの代わりに使えるか
貼ることはできますが、塗る境目には塗装用のマスキングテープのほうが向いています。塗料のにじみや、剥がしたあとの糊残りを抑えやすいためです。ただし養生テープにも製品差があるため、表示で用途を確かめてください。
反対に、マスキングテープで床全体を覆おうとすると、幅が足りずに手間と費用がかさみます。役割の違う道具なので、両方そろえたほうが結局は楽です。
雨の日に下地処理だけ進めてよいか
屋内に持ち込めるものであれば進められます。分解できる家具や小物は、雨の日に削って整えておくと、晴れた日を塗る作業だけに使えます。
屋外に固定されているものは避けてください。雨が降っていないことに加え、塗る面が乾いていること、結露していないこと、塗料の説明書が示す気温と湿度の条件を満たしていることを確かめます。削った直後の鉄は無防備なので、下塗りまでの時間も考えて日を選んでください。
下地処理にどれくらい時間がかかるか
状態がよければ、郵便受けのような小さいものは実際に手を動かす時間が1時間前後で済むことがあります。ただしサビや浮いた塗膜の除去が加わると、数時間かかることもあります。
門扉や家具では、手を動かす時間と乾燥を待つ時間を分けて、半日から1日の余裕を見ておくと安心です。とくに読めないのが洗ったあとの乾燥時間なので、天気の良い日を選んでください。
まとめ

下地処理の道具は、工程の順にそろえると抜けません。洗って、落として、整えて、脱脂して、覆う。この流れで買い物かごに入れていけば、売り場で迷う時間がなくなります。
- 道具は工程の順にそろえる
- 塗膜は下地の状態を引き継ぐ
- マスキングと養生は別の道具
- 番手は説明書の指定を優先
- 標準は6000円前後が目安
- 養生と洗いは100均で足りる
- 洗浄と脱脂と養生と保護具は省かない

工程の順に書き出してから買いに行きます。これなら迷わずに済みそうです。

それが一番の近道です。道具がそろえば、あとは塗るだけですよ。
道具がそろったら、次は刷毛と塗料です。初心者向け刷毛の選び方と失敗しない5つの基準をご覧ください。塗る前に、そもそも塗って直る状態かを確かめたい方はDIY塗装をやめるべき5つの状態と対処法もあわせてどうぞ。

